アクセスカウンタ

テーマ「Starlights〜小さな密航者」の記事 help リーダーに追加 RSS

トップへ  |  テーマランキング一覧へ


(小説) Starlights 〜小さな密航者〜 (10)

2008/02/18 20:29
3.再会 1
画像




翌朝7時。

 SP本部3階のダイニングルームでは、ユージのピアノ伴奏で賛美歌312番が歌われている。
 朝食前の礼拝が行われているのだ。

 宇宙ステーションの朝は、朝日とともにという訳にはいかない。
 時刻に合わせた照明パターンが朝、晩を作る。
 朝である今は、少しブルーの強い照明が使われており、窓の無いこのダイニングルームも『作られた朝日』に包まれ、天井から吊ってあるアイビーが朝露に濡れているように見えてみずみずしい。
 3つの大きな楕円のダイニングテーブルにはSP隊員の他に、オレンジ色のユニフォームを着た管制塔員が2名、私服姿のクリニック職員が2名座っている。
 クリニックは1階にあり、24時間受け付けている。
 クリニック職員と管制塔員は夜勤開けで、次の担当者と今バトンタッチしてきたところである。
 SP隊員はこの上の4階をプライベートルームとしているので、多少寝ボケた顔をしているのは寝起きだからだ。
 ライトブルーのSPユニフォームを着ている者もいれば、私服を着ている者もいる。
 ユニフォームを着ている者は午前中にSPの仕事が入っているのだ。

 ここ宇宙ステーション辰星(しんせい)ミクロのSPは9名。
 このダイニングルームにはピアノを弾くユージを含めて5名、後の4名はプライベートルームでまだ寝ているか、別途のスケジュールをこなしているかである。

 賛美歌を歌う彼らの前に、ホットミルクやホットサンドイッチがホカホカと湯気を立てている。
 これらはカウンターの向こうで立ち働くロボット達が作ったもので、朝食はいつも彼らが心を込めて(*^_^*)作ってくれる。
 ちなみに昼食は人間のコック、夕食は各自で作るかロボットに予約を入れるか、となっている。
 賛美歌が終わると、黒いルーズな部屋着を着たSP隊長のラインが祈りの言葉を選び始めた。
「天にまします我らの父よ。今日もこのように温かい朝食をありがとうございます。今日の賛美歌の伴奏者は新入SPのユーギンガ・ルナでした。新しい仲間とこうして集えることに感謝いたします。この小さき祈り、主イエスキリストの御名を通して神の御前にお捧げいたします。アーメン」
 ラインの言葉が終わると、
「アーメン」
 テーブルにつく者達から声が返った。

 宇宙ステーションにもやはり『天』はある。
 ここの住民自体『天』の中に居る訳なのだが、『天』の中で暮らす時代になっても神の国は『天』と言われており、祈りを捧げる彼らは『天』の神に守られたプロテスタントのクリスチャンなのだ。
 SP隊員の通う全寮制の学校SSA(Saint Starlights Academy)はキリスト教を信仰としており、日曜日にはSSA内の教会で礼拝が行われている。
 朝食前のこの祈りの時間はSSAの学生であるSP隊員に合わせて設けられているのだが、ここで勤務する者にSSA出身が多いこともあって、意義無く長年続いている。
 祈りの言葉は、SP隊員が順番に『お祈り当番』している。
 賛美歌のピアノ伴奏はラザレスか、ピアノ初心者のリスクがしぶしぶ担当してきた。
 そのリスクがピアノ学生ユージの出現をどれほど喜んだことか。

 礼拝が終わり朝食が始まった。
 ピアノから食事のテーブルに着いたユージにリスクがまず言った。
「うまいっ!」
 ユージはきょとんとリスクを見た。
 目の合ったユージに、リスクはもう一度言った。
「うまいっ! ユージ先生!」
 リスクはさらにパチパチと手も叩いた。
 ユージは戸惑った様子で少しだけ微笑んだ。
 ユージは朝食にルーミー(同室者)のアリンがいなくて心細く感じていた。
 小さい体をさらに小さくしている。
 仕事にも慣れていない上に、SPメンバー仲間にも緊張していた。
 ユージのフォロー担当のラザレスはすかさず、
「リスクほめすぎ! ユージには簡単な曲なんだから」
 調子のいいリスクをたしなめた。
「簡単な曲?! そのセリフ、オレも言いてぇ」
 リスクがテーブルをピアノのようにタンタンと弾いた。
記事へトラックバック 0 / コメント 2


(小説) Starlights 〜小さな密航者〜 (9)

2006/09/19 23:48
 2.命知らず 4

 
 SP403号の出発に人型ロボットのロンが見送ろうと立っている。
 ラザレスは艇のメータを見て、
「エネルギー、満タンになってる」
「あ、ほんとだ」
「リスク、キャノピー開けて」
「はい」
 ウイイーン。
 一度閉めたキャノピーを開けて、ラザレスが立ち上がった。
「ロン、エネルギーが満タンになってるけど」
 ロンは首をかわいくかしげて微笑んだ。
「今回は緊急での休憩でしたので、エネルギーとホテルでの休憩費用と、全て救急船の方に合わせて請求することになっております」
 ラザレスはホッとして、
「それはどうも、ありがとうございます」
「本当にご苦労様でした。どうぞ、気をつけて」
 ロンはダンスのように優雅に手を振っている。
 ラザレスは軽く会釈し、シートに座り直した。
「リスク、出発しよう」
 キャノピーが再び閉められる。
 ロンはまだ手を振っている。
 二人はシートベルトを締めながら、ロンがロボットだという意識もなく手を振り返した。
 と、その向こうから。
 バタバタッ!
 寝巻きを着た少年が走ってきた。
 後ろから看護士らが追いかけてくる。
「あ〜〜〜っ」
 二人は何か憂鬱なものを感じて、声をもらした。
 少年はこのSP号を追ってやってきて、それを看護士らが追いかけてきた・・・。
 艇を出すに出せずにいると、
「待って〜〜!連れてって〜〜!」
 キャノピー越しにそんなセリフが想像された。
 オフホワイトの寝巻き。
 少年は金髪でかわいい顔をしていた。
 青い瞳は涙ぐんでいる。
 一人の看護士がその少年を後ろから羽交い絞めにするようにして、取り押さえた。
 何かとても乱暴なシーンを見た気がしたが、看護士の表情は親切そうで、おまけに困った顔をしている。
(あの少年がわがままなだけだよな)
 別の看護士がラザレスたちに(早く出ろ)と示している。
「リスク、艇出して」
「う、うん」
 リスクは一瞬躊躇したが、自分にはどうしょうもない事なのだ。
 SP403号は、少年の声を残してセレスをあとにした。

画像

        写真「Primore」さまより

「いったい、あの子はなんなんだろう?」
 少年は育ちが良さそうに見えた。
 たった一人で宇宙旅行をしなくてはならならい理由が見当たらない。
 それも、救急船でなくSP403号に乗りたがっていた。
「わかんないなぁ」」
 リスクがしきりにつぶやくのに、
「どーせロクでもないことだよ。母をたずねてるようには見えなかったよ」
 ラザレスはそう言い捨てた。
「・・・そっかぁ」
 リスクは、彼の役に立ってやりたい気持ちが抑えられないでいた。
「天使みたいにかわいい子だったよね・・・」
「え?」
「あ、なんでもない。なんでもないです」
 
 辰星ミクロに戻ると時刻はPM4:30を過ぎていた。
 小さな密航者に出会わなければPM3:15には戻っていただろう。
「やばいやばい。おれ急ぐわ」
 リスクは機密服を脱ぎ捨て、それをフックに乱暴に掛けると、あわてて授業に出かけた。
記事へトラックバック 0 / コメント 2


(小説) Starlights 〜小さな密航者〜 (8)

2006/09/17 19:46
2.命知らず 3


画像

         写真「Primore」さまより


 廊下の向こうから声がする。
 看護士たちが作業を続けているらしい。
 リスクはちらりと視線を送り、
(大丈夫かな・・・)
 親身なため息をついた。
 ステンドグラスの美しいラウンジが見える。
(ここはバー?)
 リスクはそのフロアに足を踏み入れた。
 青や緑の光が交差するスペースは大人の臭いがした。
(足のきれいな女が似合いそうなバーだな)
 まだまだ未成年のリスクには、そこに立っているのも恥ずかしい。
 リスクはその大人の空気に押し出されるように、ラウンジを後にした。
 隣の食堂には客が3人いた。
 自分たちより先にいた客である。
 40代くらいの男性が2人とそれより年配の男性が1人。
 彼らはトレーにスパゲティーやサラダや飲み物のグラスを載せて、テーブルに着こうとしていた。
 一人が、SPのユニフォームを見て声をかけてきた。
「きみは辰星ミクロのSPかい?」
「はい」
「さっき、救急船が来ただろ。あれ、どうしたんだい?」
「あ、具合の悪い少年がいまして・・・」
「ほぉ、それで?」
「あの、僕たちがここに緊急に立ち寄ったので」
「ふむふむ」
「救急船もここに駆けつけてくれたんです」
「なるほどぉ」
 彼の仲間たちも、みな、ふんふんうなづきながら話を聞いている。
「少年はどんな具合なんだい?」
 リスクは、どこまで話していいか迷った。
「多分、たいしたことはないと思います」
「そうか、それなら・・・」
「あの、じゃあ・・・」
 それ以上尋ねられないように、そそくさと注文窓口の方へ急いだ。

 注文窓口は自動販売機のようなもので、黙ってボタンを押すだけである。
『スープ』ボタンをポチッ。
 12種類の中から『コーンポタージュ』を選ぶ。
 すぐに、目の前の取り出し口からアツアツのスープが蓋付きのカップで出てきた。
 リスクは蓋をそっと開け、
(うまそうだな・・・)
 自分のためにもう一つコーンポタージュを注文した。
 ついでにマフィンを2個追加し、それをトレーに載せて1号室へ運んだ。

 部屋に戻ると、バスルームからラザレスの陽気な鼻歌が聞こえた。
 リスクはふふんと安心の微笑を浮かべた。
「ラザレスー」
「おう」
「スープ持ってきたよ」
「サンキュー。おまえも次使う?」
「いや、オレはいい」
「そう」
 まもなく白いバスローブに身を包んで、ラザレスが出てきた。
 彼とともに湯気が部屋に流れ込む。
「いや〜生き返った、生き返った。あのチビ大丈夫だったか?」
「多分。様子見てないけど、大丈夫だろ。あっちの部屋でやってるみたい」
「そっか」
 二人は温かいスープとマフィンで一息つくと、さっそく帰り支度をし、艇のあるガレージへ向かった。
 途中、リスクはラウンジのステンドグラスを案内した。
 ラザレスもその美しさが気に入ったらしく、
「うわ、久しぶりにステンドグラス見た。ここバー?今度ゆっくり来たいね」
 ラザレスはこのあと何もなかったが、リスクは学校の授業がある。
「あの授業取らないと科学の単位が危ないんだよね」
「あいつはレポートでも点くれるよ」
「あ、そう。ありがと。ノートマジメに取ろうっと」
 言いながら、艇に乗り込もうとすると、少年の声が聞こえてきた。
 ハッとした二人が耳を澄ますと・・・。
「なんで0941じゃダメなんだよぉ。なんでだよぉ」
 少年がわめいている。
「きみ、それどころじゃないよ。死にかけたんだよ。あのままいたら凍死してたよ」
 看護士の声。
 少年はかまわず、
「僕は0941に行きたいんだっ。宇宙ステーションの0941に行きたいんだよぉ」
 ラザレスとリスクは顔を見合わせクスクス笑った。
 あの騒ぎっぷりなら心配ないだろう。
 ラザレスは助手席に乗り込み、
「早く出ようぜ。またとばっちり受けそうだよ」
「そうだね。でも何で0941なんだろう」
「いいよいいよ。ほっとこうぜ」
 ラザレスはキャノピーを閉め、どんどんと出発の体制を進めた。
記事へトラックバック / コメント


(小説) Starlights 〜小さな密航者〜 (7)

2006/09/16 01:15
2.命知らず 2.


画像

    イラスト「壁紙宇宙館」さまより
 
 小惑星セレス。
 
 ホテルの光だけがある。
 ガレージの入り口にピンクと緑のネオンが灯る。
 ピンクは使用中。
 緑は空き中。
 緑を目指して高度を下げていく。

 ホテルの宇宙船ガレージに着いた。
 艇を格納パレットに収めていると、赤いライトを激しく点滅させた真っ白の宇宙船がやってきた。
 SP403号の3倍くらいの大きさの宇宙船。
 それは、ラザレスたちと同じ辰星ミクロから来た救急船である。

 403号を収納したパレットは、そのまま上がって、ホテルの玄関に導かれた。
 リスクがキャノピーを開けると、温かい空気に包まれる。
 救急船から看護士が3人降りて、艇の方にやってきた。
 重力が小さいため、みんな浮き加減である。
 艇内からラザレスと少年が引き出された。
 ここの空気は24度くらいだろうか。
 春のようである。
 が、冷え切った二人を暖めるには温度が足りない。
「リスク!そっちはだれ?」
 同じ辰星ミクロの同じスペースで働く仲間看護士たち。
 もちろん互いに知っている。
 名前を呼び合いながら、救急行動を進めた。
「ラザレスです。すみません、艇内が−15℃より上げられませんでした」
「土星じゃ仕方ない。ラザレス!大丈夫か!?」
 ラザレスは凍りついた唇を少し開いて、
「はい」
 リスクは背の高いラザレスに肩を貸しながら、看護士たちに頭を下げた。
「この少年、お願いします」
「あとは任せてくれたまえ」
 看護士たちが少年の介抱に取り掛かったのを見て、二人はほっとした。
 
 直径914kmの小惑星セレス。
 小惑星帯(アステロイドベルト)最大の球形の惑星である。
 セレスには3つの無人ホテルがあり、二人の艇が休憩を取っているのは第3ホテル。
 第3ホテルには客室が5つ、それぞれが4人部屋の20名宿泊可能の施設である。
 無人ホテルには従業員がいない。
 ホテルの建物そのものがロボットのようなものになっている。
 食事は工場が用意し、ベッドメイキングはベッドが自分でする。
 警備も建物自身があちこちで目を光らせ、何かあれば経営者に通信連絡を入れる。
 その他に5台の人型ロボットがいて、人間のボーイのように客との接待をする。
「お部屋はこちらです。たいへんでしたね。どうぞごゆっくりお休みください」
「ありがとう」
 胸に『ロン』と書かれた青年ロボットが、やさしい声でねぎらいながら、1号室へと案内してくれた。
 部屋に入るとすぐに、リスクはバスタブに湯をため始めた。
 ラザレスは一番手前のベッドにころんと寝転んだ。
「ラザレス、ここできたばっかりなんだな。施設が最新だ。お湯の出がすごくいいぜ」
「そう」
 ラザレスは、寒さが抜けきれず、体がまだ硬くなっていた。
 顔の動きも鈍く、よく口が回らない。
「ラザレス、もうたまってきた。第1ホテルなんか古くてシャワーの出がちょろちょろだったよ。・・・うん、もう準備していいよ。タオルここあるし、ローブもある」
「はい」
 ラザレスは、ただリスクの言うとおりにした。
 もたもたと服を脱ぎ、バスルームに向かう。
 リスクはやたらに甲斐甲斐しい。
「食堂からスープもらってきとくから」
 言い置いて、部屋を出た。

記事へトラックバック / コメント


(小説) Starlights 〜小さな密航者〜 (6)

2006/09/07 01:41
2.命知らず 1.



「だ、だ、だれだ?!」
 ラザレスとリスクは事態がつかめず、ただ呆然とした。
 バックシートに機密服が浮いている。
 中には誰か入っているらしいが、シートベルトをしていないため、ぷかぷかと浮いている。
(死人か?生きているのか?)
 ラザレスはそっとその機密服を触ってみた。
「・・・・・・」
 反応がない。
 つかんで引き寄せ、顔を覗くと、
「子供だな。10歳くらいの男の子か」
「男の子?いつ乗り込んだんだろう。タイタンの病院・・・?」
 リスクは、あの時の作業のことを思い返してみたが、そんなに油断があったとは思えなかった。
 ラザレスは、少年の体をゆすり、宇宙公用語で話しかけた。
「おい、大丈夫か?どうした、返事しろっ」
 少年の眉がピクリと動いた。
「おい、がんばれ、どうした?」
「さ、さむい・・・・・・」
「そりゃそうだろう。こんなペラペラの機密服じゃ死ぬぞ」
 ラザレスはシートベルトを外して、バックシートへ移動した。
 そして、自分の機密服を脱いで、少年の体をその中へすっぽりと入れた。
「こいつ冷え切ってる。大丈夫かな」
 パチン、パチン。
 リスクは艇内のヒーター温度を最高に上げた。
 それから、タイタンからの離陸に使ったヒートシールドで、艇の外側を再び覆った。
「ラザレス、ホテルに行く?」
「それが一番近いな」
 リスクはモニターに辺りの天体図を映し、
「ここからならセレスが近い。ラザレス、辛くなったらかわるぜ」
「ああ、ダッシュで行って!」

画像

      イラスト「壁紙宇宙館」さまより

 ラザレスはバックシートに体を擦り付けるように横たわり、少年を胸に抱きこんでベルトを締めた。
 それから、病院スタッフからもらったホットココアを少年のほほに当てた。
「ホットココアだ。飲むか?」
 少年はガクガクとうなづいた。
 ラザレスがストローを口に添えてやると、チューと飲み始めた。
「よかった・・・。がんばれ。もうすぐ温かい所に連れてってやるからな」
 機密服を脱いで薄着になったラザレスを心配して、リスクが言った。
「ラザレス、ホットレモネー飲めよ。少しは違うだろ」
「ああ、ありがとう」
 ラザレスはかじかみ始めた指でホットレモネーのキャップを開けた。
「わぁ、指が動かなくなってきた〜」
「ええ?!大丈夫かよ。あと5分あるぜ」
「いい、行っちゃって。まだ耐えれる」
「よし!」
 リスクはSP管制塔に進路変更の連絡を入れた。
「こちらSP403号。少年が403号に予定外に同乗していまして・・・」
―――は?どういうことですか?
「とにかく、急いでまずセレスのホテルに向かいます」
―――タイタンから予定外の人を乗せているということですか?
「そうです、そうです!体調を崩しているので、まずホテルに寄ります」
―――了解しました。また連絡下さい、どうぞ。
「了解!」
 プチン。
「あ〜、説明長くなったぁ!」
 リスクはフルスピードで、火星と木星の間にあるアステロイドベルト(小惑星帯)の中の小惑星の一つセレスにある無人ホテルを目指した。

記事へトラックバック / コメント


(小説) Starlights 〜小さな密航者〜 (5)

2006/09/04 12:08
1.スペースパトロール隊! 4.



 タイタンの第2宇宙港を出発したSP403号。
 操縦席にはリスクがいた。
 今日の艇の操縦は4回目。
 午前中のパトロールからずっとラザレスに操縦指導を受けている。
 名パイロットのラザレスから集中特訓が受けられることを、リスクは素直に喜んでいた。
 ラザレスの操縦技術が高いのにはワケがある。
 彼の将来の夢は、恒星間パイロットなのだ。
 SPに入る前に、すでに四人乗り宇宙艇の操縦ライセンスは取っていた。
 普通の隊員たちは、そのライセンスを入隊後取得している。
 ラザレスに付いてSP隊の仕事もろもろを学ぼうとするユージも、これから取ろうとしているのだ。
 それが普通である。
 しかし、5歳の時に恒星間パイロットを目指し始めたラザレスは、それからの時間を全てパイロットになるために当ててきたと言っていいほどであった。
 今では、100m級の宇宙客船の操縦ライセンスまで取っている。

画像

          イラスト「壁紙宇宙館」さまより


 タイタンを離れ、土星の輪を斜めに見ながら、その下をくぐるようにして、土星軌道をあとにした。
 木星軌道に近づいてきたところで、リスクは辰星ミクロの管制官に連絡を入れた。
「こちらSP403号。タイタンでの任務完了。今木星軌道過ぎました。これから戻ります。どうぞ」
―――こちら辰星ミクロSP管制塔。SP403号、木星軌道通過。了解しました。
 ラザレスが、ぶるぶるっと身震いしながら、
「このまま進むと火星の影に入っちゃって寒いよ。なるべく太陽に当たっていこう」
「あ、ごめんごめん」
 リスクは艇の方向を少し右にずらし、常に太陽が見える位置で辰星ミクロまで行けるよう、軌道を修正した。
 辰星ミクロまであと40分、特に何もなく進む予定なので、暇つぶしに音楽をかけた。
 ラザレスが音楽を選んで艇内に流した。
「お、ピエールの新曲じゃん。選曲だれ?」
「アリンだよ、もちろん。さっそく艇に備えちゃって。好きだねぇ」
『ピエール』とは歌手の『ピエール・G・ロック』のことだ。
 アリンはピエールの熱狂的ファンなのである。
 ピエールの新曲『Mr.スペースパイロット』が流れると、ラザレスは声合わせて歌い始めた。
 ピエールの細いテノールとラザレスの低いベースが美しいハーモニーを奏でる。
「ラザレス、もうこの曲覚えたの?すごいじゃん」
「昨日、アリンとこの艇で一緒だったんだよ。一日中聞かされてさ」
「はは、なるほどね。・・・そういえばさぁ」
 カチッ。
 リスクはここで、操縦桿を放して自動操縦に切り替えた。
「ユージ、あんなに人見知りだっけ?」
「ああ、うん・・・」
「前に授業で一緒になったことあるけど、もう少ししゃべるヤツだったような」
「SPの仕事に緊張してんじゃないかな」
「え〜、そうかぁ?君と二人で艇に乗れなそうに見えたけど」
「ああ、それはそうかも。アリンが一緒に乗ることになってる」
「うそっ!そこまで神経質になってんの?」
「う・・・ん。実は・・・」
「え、なになに?」
 リスクが興味深げに身を乗り出したので、思わずラザレスは声をひそめて、
「内緒事項なんだけど・・・」
 リスクは笑って、
「小さい声にしなくても・・・。誰も聞いてないじゃん」
「ああ、そうか」
 ラザレスも気づいて笑った。
「・・・でも、内緒だからね」
「うん」
 ラザレスはやはり、小さめの声で神妙に言った。
「ユージ、最近ちかんに遭ったらしいんだよ」
「ちかん?」
「それで、男性恐怖症になったとか」
「へぇ・・・。かなりひどい事されたのか・・・な?」
「そうだろう。まだショック引きずってるらしいから」
「・・・そっか。かわいそうだったな」
「ユージ、体小さいしな。何も言えなかったんだろう」
 二人は少し沈黙した。
 ピエールの曲は3曲目に移っている。
 と、ここでリスクは急に思いついたように、
「そうだ、俺らと少林寺やればいいじゃん!」
「ああ、そうだ!」
 ラザレスも声を明るくした。
 二人は少林寺拳法をもう何年も学んでいた。
 ユージと共にSPに入隊したカズマサもすでに少林寺拳法の有段者である。
「少林寺やれば、ちかんくらいユージでも撃退できるよ」
「そうだな。それがいいや。明日会ったら言ってやるよ」
「うん、それがいい」
 二人はうんうんとうなづきあった。
 それから、タイタンの病院スタッフにもらった温かい飲み物を保温箱から出した。
「まだ温ったけー。ありがたいなー」
 自然と顔がほころんだ。
 無重力でも液体が飲めるように工夫された無重力対応ボトル。
 ストローが付いていて、中身を絞り出せるようになっている。
 重力のある所でももちろん飲める。
 底が平らにもなり、コップのようにテーブルに立てる。
 茶色のボトルはホットココア。
 黄色のボトルはホットレモネー。
「ラザレス先生、どっち飲む?」
 リスクが尋ねた。

 ・・・・・・と。
 
 二人は突然、はっとして動きを止めた。
 二人しか乗っていないはずの艇のバックシートで、気配、がする。
 互いに体を硬くして目を見合った。
 そして、そーっと後ろを振り向いた。


記事へトラックバック 0 / コメント 3


(小説) Starlights 〜小さな密航者〜 (4)

2006/09/01 23:27
1.スペースパトロール隊! 3.

画像

      イラスト「壁紙宇宙館」さまより


 ラザレスとリスクの緊急任務は、土星の衛星タイタンのコロニー「若草の街」の中央病院への医療品運搬だった。
 コロニー「若草の街」の農業ブースには地球の土が運び込まれていて、毒を持った生物がしばしば事故を起こしていた。
 解毒の血清以外の医療品不足で緊急を要することは無いものの、血清類だけは欠くわけにはいかない。
 4人乗り宇宙艇403号で出動した二人は、宇宙ステーション辰星ミクロコスモスを出てから65分で、目的のタイタンを目の前にした。
 タイタンは直径約5150kmで、地球の月の直径が約3476kmなので、それより大きい。
 気圧が地球の1.5倍で、厚く濃密である。
 地表温度は−180度以下。
 コロニーはしっかりとドームバリアで守られており、外界の過酷さを感じないほど、快適な空間になっている。
「若草の街」の通り、緑がいっぱいの憩いの街になっている。
 ここは宇宙旅行者のための街のようなもので、宿泊施設を中心に街が成り立っている。
 居住者はそれを生業にしている者たちである。
 
 タイタン上空高度1250kmあたりから大気に突入した。
 大気との摩擦に耐えるよう、SP403号はヒートシールドに覆われている。
 タイタンの気候は不安定で、たびたび雷が発生するが、今日は比較的おだやかなようである。
 そして、ドーム型のコロニーが7つ見えてきた。
 その中の2つに宇宙港がある。
 第2宇宙港を目指して艇を下降させてきたラザレスは、ここでリスクと操縦を交代した。
「こっからはステーションと同じ要領だから。重力あるから、少し高めでいって」
「了解」
 リスクが管制塔に連絡を入れる。
「SP403号到着しました。中央病院への入港を希望します」
―――SP403号。了解です。第7滑走路から病院へ直でどうぞ。
「第7滑走路から病院直。了解」
 二人の乗ったSP403号は第7滑走路に入った。
 操縦しているのはリスク。
 ラザレスが細かく指示する。
「あいつ、右のあの人、手振って。OK・・・。門が・・・開くから・・・」
 格納庫パレットへの門が左右に開いて、パッと黄色のライトがまばゆく目に入った。
 一瞬、二人は目を細める。
 それに反応して、二人のサングラスの色がサッと濃くなる。
 パレットに載せるように艇が進入する。
「重力計算に入れて。高め高め。よしよし・・・うまいうまい」
 ふぃーーーん。
 しゅーーーん。
「エンジン切って。病院入り口だから、あとは惰性でいくから」
「ほぉー・・・」
 リスクが安心のため息を吐くと、ラザレスはポンポンと彼の肩を叩いた。
「今のジャストによかったよ。やっぱ続けてやると練習効果高いな」
「うん、ありがとう。ちょっとつかめてきたかな」
 艇がパレットに収まると、ゆっくりとモノレールのようにパレットごと病院のガレージ入り口へと導かれた。

 病院の出入り口には二人の男性が待ち構えていた。
 一人は年配で事務服を、もう一人は若く、ピンクのナースユニフォームを着ていた。
 「ご苦労様です」
 リスクとラザレスは艇のキャノピーを開けて、ガレージに降り立った。
 あたりは黄色のライトに包まれて、いつもの青い機密服が緑に見える。
 二人は機密服のヘルメットを脱ぐと、ごわごわと音をさせながらまず手袋を外した。
 そして、胸ポケットからIDカードを出してスタッフに見せた。
「どうも。ラザレス・ワシントン、僕のIDです」
「リスクトリン・ウエストです」
 病院スタッフはラザレスとリスクのIDカードを確認した。
 同じように、病院スタッフのIDをラザレスが確認し、それから頼まれた医療品を手渡した。
 若いスタッフは早速病院内へ医療品を持って行った。
「ありがとうございます。さっき最後の血清を使ってしまったので、補充を急いでいただけて安心しました」
「それはよかったです。何か毒虫でも発生しましたか?」
「新しく作られた稲栽培用の土に毒ヘビが冬眠して入っていたようでして。一人作業員がやられて、ヘビはそのまま逃げてしまったんです」
「毒ヘビ・・・。よくここまで見つからずに・・・」
「土の梱包者が手を抜いたんでしょう。土の質は良質でしたが、毒ヘビが入ってくるとは・・・。私どもも驚きましたよ」
 若いスタッフが、納品確認書を持って戻ってきた。
「品物確認しました。ありがとうございます」
 リスクがその確認書を受け取った。
「それ、クリニックのブック先生に渡して」
 ラザレスに念を押され、
「はい、ブック先生に」
 リスクは確認書を胸ポケットにきちんと入れた。
「じゃ、僕らはこれで」
 ラザレスが挨拶をすると、 若いナースがポケットから無重力対応ボトルの温かい飲み物を2本出した。
「これ、よかったら飲んでください」
 宇宙空間はかなり寒い。
 艇内の空気も多少は暖められてるし、防寒機能の働く機密服を着ているが、それでもまだ寒い。
 温かい飲み物はありがたかった。
「あ〜、うれしいです!どうもです!」
 二人はお礼を言いながら、艇を出発させた。
 
  
記事へトラックバック / コメント


(小説) Starlights 〜小さな密航者〜 (3)

2006/08/31 02:28

1.スペースパトロール隊! 2.



 
画像

 写真「Primore」さまより


 3階のリビングルームにリスクがいた。
 パトロールを終え私服に着替え、部屋のはじっこに置かれたピアノに向かっている。
 赤いTシャツにブルージーンズ、足には何も履いていない。
 ひどくラフな格好だ。
 楽譜とにらめっこしながら、たどたどしく弾く姿は、少し滑稽に見えなくもない。
 ここのピアノは完璧な防音がなされているので、ピアノの音は全く聞こえない。
 リスクの方にも、外の音は遮断されている。
 緊急放送は、ピアノの上のスピーカーが伝えてくれる。
 
 カタカタカタ・・・・・・。
 機械的な音しかしない静かなリビングルーム。
 彼以外誰もいないのだ。
 SPの隊員たちは、リビングルームとダイニングルームのあるこの3階と、プライベートルームのある4階を生活の場としている。
 リビングルームにはピアノの他にTVとソファがある。
 ダイニングルームは20人ほどで食事できるように、大きな楕円のテーブルが3つあり、それを囲むように椅子が6脚から7脚置かれている。
 その向こうには、カウンター越しにキッチンで立ち働くロボットが2台見えている。
 彼らは、隊員たちに頼まれた夕食を作っているのだ。
 隊員たちの昼食はコックが作りに来るが、夕食は自分で作るかロボットに頼むか、外食するか、ということになっている。
 ちなみに、朝食はロボットが作ってくれる。
 夕食は5時からとなっており、今はまだ、リビングにもダイニングにも誰もいなかった。
 
 リスクは指ならしに与えられたフレーズを弾き終えると、ラザレスに出された宿題の曲にとりかかった。 
 リスクはラザレスにピアノを習っている。
 定期的にとはいかないが、時間が許せばなるべく毎週時間を作っていた。
 ラザレスのピアノは自己流だが、かなり演奏技術を習得していた。
 リスクのピアノ歴の方はまだ2、3年というところ。
 去年SPに入り、ラザレスと出会い、それまで通っていた教室を止め、彼に習うようになったのだ。
 リスクはラザレスを慕っていた。
 とても信頼を置き、何でも話せると感じていた。
 SPにいる間は彼に付いていこうと決めているのだ。
 ピアノの時間はその彼との大事な交流の時間となっている。
 もちろん、ピアノも大事なものだった。
 今は亡き母親の思い出なのだ。
 彼の母親がよくピアノを弾いていたのだ。
「僕の母が弾いてた『エリーゼのために』が弾けるようになりたいんだ」
 リスクはそう言ってラザレスにレッスンを申し込んだ。
 今のリスクの腕前では、その曲はまだまだ遠い。

 宿題の曲を弾き続けるリスクの横に、ラザレスがやってきた。
 コンコン。
 ピアノをやさしくノックして、
「やあ、生徒くん、やってるね」
「ラザレス、早かったじゃん。もう終わり?」
「終わった。その曲もう仕上がりそうだね」
「うん、けっこうがんばった。だから・・・」
 リスクはそこで言葉を切った。
 ラザレスの後ろに、新人隊員のユージが立っていたのだ。
 ユージはうつむき加減で、二人の会話をただ聞いている。
 顔は見えないが、栗色のふんわり巻き毛がとてもチャーミングだった。
 リスクはその彼女に声をかけた。
「ユージ、お疲れ様」
 ユージは少し目を上げ、ペコッと頭を下げた。
 巻き毛がやわらかくゆれる。
(きれいな碧い目だな・・・)
 リスクはすばやく観察しながら、無口な彼女との接点を探していた。
 しかし、 彼女からはしゃべりかけないので、それ以上会話は続かない。
 ラザレスはそんなユージに言った。
「じゃあユージ、今日はここまでにしよう。明日また朝食で。僕の隣に来てね。席空けておくから」
「はい。ありがとうございました」
 立ち去りかけたユージに、
「そうだ、ユージに明日の賛美歌当番頼もうかな」
 ラザレスはそう言って、ピアノの上にある賛美歌の本を取り出した。
「明日は・・・」
「はい・・・」
「じゃあ、この312番」
「わかりました」

 ユージもピアノを弾くのだ。
 4歳の頃からピアノ講師について、基礎からきちんと習ってきた。
 SP卒業後は音楽大学を希望している。
「ユージもピアノ弾くんだ」
「うん。彼女は本物だよ。クラッシックを基礎からやってるから、今度習えよ」
「そのうち、個人レッスン・・・」
「個人レッスン。いい響きだねぇ」
「いい響きだねぇ」
 二人は目を合わせて、的外れな事を思って笑った。
 と、ここで、ピアノの上のスピーカーが二人を呼んだ。
―――ラザレス。ラザレス。
「はい、ラザレスです」
―――リスクもいますか?
「あ、はい。リスクです」
―――二人に緊急任務が入ってます。至急クリニックの方に行ってください。
「了解しました。リスク、急ぐぜ」
「はい」
 リスクは『緊急任務』が初体験なので、少し緊張してきた。
 その様子を察して、ラザレスは、
「多分、医療関係の荷物をどっかに艇で運べって言われるだけだよ。緊張すんな」
「そういう任務か。よかった」
「服もこのままでいいから、行くぜ」
「はい」

記事へトラックバック / コメント


(小説) Starlights 〜小さな密航者〜 (2)

2006/08/30 15:38
1.スペースパトロール隊! 1.



 西暦2295年10月1日

 宇宙ステーション辰星(しんせい)ミクロコスモス、サード(3rd)リング。
 その一番外側に「4000番館」と呼ばれる街がある。

 ここは、スペースパトロール隊本部前。
 通称SP(エスピー)本部の入り口前は、今日も14、15歳の少女たちでにぎわっていた。
 彼女たちの目当ては男子隊員たちである。
 入り口入ってすぐにある受付カウンターでは、チョコレート色の肌をした受付嬢モリーがコンピュータパネルと向かい合っている。
 美しい脚を組みコンピュータを操作する彼女の横に少女たちが3人、入り口の外にも5人。
 少女たちはSP隊員の『追っかけ』で、学校が終わる午後2時を過ぎると、毎日のようにやってくる。
 入り口フロアは広くない。10人も立てば狭さを感じる。
 SP本部には、SPのオフィスのほかに、24時間受付のクリニックも入っている。
 クリニックのカウンターは別になっており、SPのカウンターの内側は全てSP関係のフロアで部外者は入れない。
 背伸びしてその内側を伺う少女たちへ、コンピュータ操作を終えたモリーが言った。
「それで?」
「あのぉ・・・」
 一人の少女がおずおずと、
「セオドアの・・・」
「はいはい、お待ちください」
 モリーはコンピュータのキーをタタンと叩き、
「まだ戻ってないわね」
「まだ・・・」
「あと20分くらいかな」
「ホントですか」
「13分前に火星軌道から連絡が入ってるから、あと20分ほどで宇宙服を脱いでここを通ると思うわ」
 モリーはこういった少女たちに愛想がいい。
 彼女たちを冷たくあしらう受付嬢が多い中、モリーは彼女たちのつまらない質問でも快く答えてやる。
 ピシューン!
 入り口のガラス扉が左右に開き、二人の少女が風を切って入ってきた。
 二人はエアーシューズを履いている。
 宇宙ステーション内を移動す時はエアーシューズを利用する者が多い。
 プチン。
 エアースイッチをオフにすると、息も整えずにモリーへ詰め寄り、
「そろそろラザレスが戻ってくる時間だと聞いたんですけど。呼び出してください!」
 こちらの少女たちはかなりずうずうしい。
 モリーは(やれやれ・・・)といった顔をしながら、
「そうね。確かに戻ってるけど、さっき長官に呼ばれてしまったわ」
「え〜〜〜、また長官!」
「あのオニすぐ仕事させるぅ」
 女の子に優しいラザレスは人気が高い。
 時間が許せばデートにも付き合う。
 自分からはあまり話さないが、にこにこといつも朗らかで、人の悪口は一切言わない。
「あ、ラザレスだ!」
 その彼が奥の部屋から出てきた。
 宇宙艇内で来ていた機密服を脱ぎ、ライトブルーのパンツスーツを着ている。
 これが通称「ブルースーツ」と言われるSPのユニフォームだ。
 ラザレスは手にバインダーのようなものを持ち、それに目を通しながら歩いている。
 彼は、SP4年次の18歳。
 身長が2メートルを超え、がっちりとたくましい。
 その上色が黒く、ニックネームは『カフェ』
 外にいた少女たちもあわてて入ってきて、
「ラザレスー!」と声をかけた。
 しかし、ラザレスは静かに微笑んだだけで、
「しーっ」と指を唇に当て、静かにするよう促した。
 彼の後ろからSP長官の山崎がいたからだ。
 モリーが(あなたのファンよ)と目配せすると、ラザレスは少女たちへ小さく投げキスを送った。
 すぐに「わあっ」と黄色い声が上がる。
「バカ者!」
 山崎がゴンッとラザレスの頭を殴る。
「す、すみません」
 再び黄色い声。
「オニッ。彼の仕事はもう終わりでしょ」
 山崎の背中がぷるぷる震えた。
「しーーーっ」
 ラザレスは少女たちをなだめながら、山崎と2階へ上がっていった。
 彼らの後に、さらに背の高い男子隊員とかなり背の低い女子隊員、そしてもう一人輝くように美しい女子隊員アリンが続いた。
「アリン!アリン!」
 アリンはにこやかに少女たちの方を向き、
「新しいSP隊員よ。よろしくね」
 二人の新入隊員がそれぞれに挨拶した。
「カズマサです。よろしく」
 背の低い女子隊員は、カウンターに張り付く少女たちの様子にびっくりしたらしく、少し震えていた。
「あの・・・」
 すぐにアリンがフォローした。
「彼女はユージ。私の幼馴染なの。よろしくね」
 その言葉に合わせて、ユージは頭をペコリと下げた。
 カズマサは、
「声出せよ、ユージ。挨拶ぐらいしろ」
 ユージはおどおどしながら、
「あの、・・・ユージです。お願いします」
 小さな声で挨拶をした。
 アリンはその場を切り上げるように、短く「じゃね」と手を振って即座に2階へと二人を上がらせた。
 残った少女たちはその後姿を見ながら、
「アリン・・・・・・どうしてあんなにきれいなんだろう」
「人間とは思えない・・・・・・」
 アリンはSP2年次の16歳。
 髪はサラサラのブロンドで目はサファイアのように青い。
 性格はさっぱりしていて姉御肌。
 男性はもちろん、女性ファンも多い。
 ひとしきりアリンの話をすると、少女たちの話題は新しいメンバー『カズマサ』のことに移っていた。
「カズマサけっこういいかも」
「ちょっと目がつり上がってるのがニヒルっぽい」
「背もすっごい高いし、カッコイイじゃん!」
 カズマサは一ヶ月前に入った1年次の15歳。
 背は170を超えている。
 背の低い彼女、ユージは身長が150をやっと超えたところ。
 そしてユージとカズマサは4歳の時から一緒に育っており、二人は兄弟のようなものだった。

 SPに入れる彼らは皆、保護者のいない者が通う施設で育っている。
 SPは難しい試験によって選抜されるエリートでもあるが、危険の多い仕事でもあり、保護者がいないからこそなれる―――とイヤな言われ方もされる。
 そして、彼らの育った施設は、SSA(エスエスエー=SaitAtarlightsAcademy=セントスターライツアカデミー)と言う。
 全寮制の学園で福祉施設であるとともに、IQの高い者だけを集めた特殊な教育施設でもあった。

記事へトラックバック / コメント


(小説) Starlights 〜小さな密航者〜 (1)

2006/08/30 10:42

イントロダクション


画像

       イラスト「壁紙宇宙館」さまより 


「引いて・・・引いて・・・もっと。そうそうそうそう・・・。そのまま・・・・・・。右手だよ、右手右手。くいっと回す、くいっと、コンパスみたいに」
「・・・コンパス」
「引くの忘れんな、引くの、引くの!」
「・・・・・・いきます」
「もういって、もういって!」
「は・・・っと・・・」
「・・・・・・遅っ」
 シューーープフゥーーー。

 ピポンピポン。

―――宇宙ステーション0941(ゼロナインフォーワン)へようこそ。
    次にいらっしゃる時には、もう少し左寄りにお止めください。

「はぁー。ラザレス先生、すみません」
「ま、前よりいいよ。右手使いながら左手引き続けるの忘れないで」
「はい」
 格納庫に収納された四人乗り宇宙艇から降りながら、二人の青年はそれぞれの手荷物を確認し、艇の扉を閉めた。
 背の低い方の青年リスクは肩を落としている。
 落ち込んで気が滅入っている様子。
 その肩を、背の高い青年ラザレスがやさしくポンポンと叩いた。
「失敗は今のうちさ」
「あーあ、自己嫌悪。ダメだなぁ」
「いやいや、筋はいいほうさ。せっかくだから間あけないでやろうぜ」
「ありがとう」
「次いつだっけ?」
 二人は立ち止まり、機密服のヘルメットを外した。
 自由になった髪の毛をさわりながら、
「えっとーあさってアリンとだから、それを・・・」
 背の高いラザレスは急にギクッとして、
「やばい、新人来るんだ」
「お、ラザレス先生、新入生の指導始まるのか。ラザレスはどっちに付く?カズマサとユージ」
「オレはユージ」
「いいなぁ、女の子」
「ふふ。今がんばればおまえも指導できるようになるよ」
「そうだそうだ。やっぱ操縦がんばろう!」
 そこで女性アナウンスが格納庫に響いた。
―――ラザレス、長官がお待ちです。SPルームに急いで。
「はーい、了解でーす。リスクごめん。必ず練習入れようぜ」
「ありがとう!あ、それオレが持ってく」
「助かる。サンキュー」
 ラザレスは持っていたファイルを彼に手渡すと、足早に出口へと向かった。
 その背中に、
「ラザレス、ピアノ今日できる?」
「多分できる!」
「了解!」

 見えなくなったラザレスに、リスクは頭を下げた。
「先輩ありがとー。オレ教わってばっかだなぁ。恩がたまりっぱなしだ。・・・・・・あいつの好きなレモンチューでも買ってくか」

 リスクがそこを立ち去ると、格納庫は自然とライトが消え真っ暗になった。

                
記事へトラックバック / コメント


トップへ  |  テーマランキング一覧へ